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徳島地方裁判所 昭和53年(ワ)287号 判決 1979年6月26日

原告

蔵本定介

被告

鈴木勲

主文

被告は原告に金五万円とこれに対する昭和五二年一二月二九日から完済まで年五分の率による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用のうち、八分の一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に金三九万五〇二二円及びこれに対する昭和五二年一二月一八日から完済まで年五分の率による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行宣言を求め、次のとおり述べた。

一  発生した事故の内容

(1)  日時 昭和五二年一二月二八日午後四時ごろ

(2)  場所 徳島市富田橋一丁目三〇番地先の信号機のある交差点

(3)  本件交通事故の特徴

本件交通事故を一口で言えば、原告運転の足踏自転車と被告の長男鈴木敦運転の足踏自転車との交差点における出合頭の衝突事故である。

(4)  加害者鈴本敦は被告の長男で、当時一二歳九か月の中学校一年生である。

(5)  事故状況の詳細

原告が自転車を運転して南進し、前記信号機のある交差点にさしかかり、赤信号のため道路左端でいつたん停止し、信号の変わるのを待つていた。そのとき原告の右横に普通自動車が並んで停止していた。

青信号になり、原告がゆつくりと発進した。右自動車も原告にやや遅れて発進した。原告がもうすぐ交差点を渡り終わろうとしたとき、右方から無謀にも赤信号を無視して猛進して来た加害者の運転する自転車を右斜前方に認めたので、原告は直ちにブレーキをかけたが、相手の速度が速かつたため衝突、原告は自転車もろとも宙に浮くようになつて腹を上に仰向けに転倒し、そのため原告は受傷した。相手は負傷しなかつた。原告は後方から進行して来た自動車の運転手に助けられてようやく起きることができた。

(6)  病名及び傷害の部位程度

(イ)  右胸部打撲症、骨盤骨折、右骨下部不全骨折

(ロ)  入院期間 一八日間

自 昭和五二年一二月二八日

至 昭和五三年一月一四日

(ハ)  通院期間 三四日間

自 昭和五三年一月一五日

至 昭和五三年二月一七日

(ニ)  現況

本件起訴時においてもなお肌冷えの日には右肘に痛みがある。

二  損害

(イ)  医療費 八万四三二二円

(ロ)  付添費 四万三二〇〇円

(昼夜ともに看護したので、一日に二四〇〇円、入院日数一八日間)

(ハ)  入院雑費 九〇〇〇円

(一日に五〇〇円、一八日分)

(ニ)  事故証明のための診断書料 三〇〇〇円

(ホ)  事故証明書料 五〇〇円

(ヘ)  診断書料 五〇〇〇円

(ト)  休業補償 五万円

一三万八四五〇円のうち今回請求額。徳島税務署の証明による昭和五二年度の原告の年収額は一七六万九八九〇円で、所得税額八万五四〇〇円であり、その差額は一六八万四四九〇円。これを三六五日で割ると一日収入額四六一五円を得る。ところで、原告の入院期間は前記のとおり一八日間となつているが、これは原告の入院先の佐藤病院が隣りであるので、原告は無理をいつて早く退院したものである。

これによつてみても判るように、原告の絶対必要な静養期間は一か月であり、この期間休業を要した。

よつて、右一日四六一五円の一か月分として一三万八四五〇円。このうち今回五万円を請求する。

(チ)  慰謝料 二〇万円

原告は、事故時、衝突の衝撃により、あたかも蛙を人間が大地にたたきつけるような格好で路上にたたきつけられ、胸部等を強打し、骨折した。最初の一週間は高熱にうなされ、点滴を施した。何より困つたことは小便ができなかつたことである。そのため、小便を取るとき陰茎に器具をその都度差し込んだりした。一時はどうなるかと心配で不安が絶えることがなかつた。退院後大分月日が経過している現在でも肌冷えの日は腰等が痛むのである。事故に伴なう肉体的精神的苦痛が大きい。このような次第なので慰謝料二〇万円を正当と考え、請求する。以上(イ)ないし(チ)の合計額は、三九万五〇二二円となる。

三  過失関係

本件事故の状況は前記のとおりであつて、原告は、赤信号により停止し、青信号により発進し、左側通行したもので、原告には何ら過失はない。

しかるに、相手方は、交差点内を赤信号で暴走しているほか、右側通行という重大な過失を犯している。また、衝突直前には、原告の右側にいた自動車も走行していたのであるから、相手方は、進行中の車両の前方を横切つているのである。これは、道路交通法一三条の規定に違反している。このように、右自動車が青信号を待つて交差点を進行しているのに、あえてその直前を通過するということは、前方注視を欠いていることになる。相手方にはこのように多くの過失がある。

以上のような次第なので、その非は、まつたく相手方にあり、原告には過失はない。過失相殺の問題発生の余地がないので、前記損害額全額三九万五〇二二円を請求する。

四  本件事故をひき起こした加害者鈴木敦の親権者たる被告を相手として提訴した理由

本件交通事故における直接の加害者は鈴木敦であるが、本訴の被告をその親権者鈴木勲とした理由を以下に述べる。

右鈴木敦は、本件事故当時、徳島市立津田中学校の一年生であつた。同人の自転車の運転方法は、はたして人間の精神をもつているのかどうか疑うほど、まつたく無茶苦茶である。すなわち、その運転方法たるや、(1)信号無視、(2)右側通行、(3)車両直前通行、(4)前方不注視という四個にわたる違反を犯している。そうして、違反も内容によりけりであるが、同人の場合、最も基本的な致命的な違反又は過失である。今日、交通教育はわが国において普遍的に行きわたつており、赤信号で交差点を進行してはならないことや車両は右側通行をしてはならないことは、小学生といえども知り尽している。しかるに、同人はあえてこのような根本的な最も常識的なことすら実行していない。

これを見ても判るように、同人の知能は小学生以下といつても不当ではないであろう。同人の場合、自己の運転方法の結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識する精神能力がきわめて薄弱である。だからこのような違法な運転しかできなかつたのである。すなわち、この場合は、民法七一二条の未成年者が他人に損害を加えたる場合においてその行為の責任を弁識せざるものに該当する。故に、民法七一四条によりこれを監督すべき法定の義務ある被告に賠償の責任がある。

また、原告が佐藤病院に入院直後、病室に被告及び被告の妻が訪れたときのことである。原告が重傷で入院しているのに、同人らは、見舞いの言葉や原告の傷のことには何らあいさつもせず、病室に入るなり、「自分の子鈴木敦の自転車に傷跡がついていないので、私方には責任がない」と言つた。普通病人のところに来る者は、日本人の習慣として、病気のことをまず尋ねるものである。しかも、原告は胸を痛めて横臥していた。しかるに、被告はいきなり交通事故のことで理屈を言つた。原告はその非常識さに唖然とした。

被告にはもちろん被告としての言い分があろう。しかしながら、それは通常のあいさつをしたのちに言うべきものと思考する。被告の態度は常識を逸していた。このような親であるからこそ、その子に対する教育もできないのではないかと思つた。

以上のようなことからしても、民法七一四条の責任が被告にあるものと思考する。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、次のとおり述べた。

一  請求原因第一項(1)(2)の事実は認める。

同項(3)は否認する。被告の長男は、原告とは、衝突はおろか、全然接触すらしていない。

同項(4)は認める。

同項(5)は否認する。詳細は後述する。

同項(6)は不知

二  請求原因第二項の事実は否認する。

三  請求原因第三項の事実のうち、被告の長男が赤信号のうちに交差点に侵入したことは認める。その余の点についての詳細は後述する。

四  請求原因第四項の事実のうち、被告の長男の信号無視の点は認めるが、その余は否認する。原告は、被告の原告との面談状況についても非難しているが、被告は、病院へ原告をたずねて行つたとき、当然けがの状態はどうですかと原告を気遣い、その後に自分の子供とは接触していないと主張しているのであつて、何ら通常の域を逸脱していない。また、翌日午前中に金参阡円の見舞品を添えて見舞いもしている。

五  被告の主張(事故の状況)

被告の長男敦は、徳島市富田浜通りを同市銀座通りから住所の同市津田浜之町へ帰るべく、前記交差点に向つて道路の左側を自転車に乗つて通行して来たのであるが、同交差点には北側には横断歩道がなく、何となく通りづらく思つたので、同交差点西方約五〇メートルのところに差しかかつたとき、道路を南側へ横切り、道路の右側を通つて交差点の南側西端へ達した。そのとき、南北の歩行者用の信号は青色灯が点滅しだし、したがつて間もなく南北の車両用の信号は黄色に変わることが予測できたわけである。同交差点から約八〇メートル南方には仲之町の交差点があり、ちようど年末も押しせまり、市中の交通はいたるところで渋滞し、当時現場付近も北から南へ向かう自動車はあたかも一寸刻みの進み方であつた。

歩行者や自転車に乗つている者の心理として、交通が停滞していれば、対面する信号が仮りに赤であつても、交通違反とは知りながら、思わず道路を横切りたくなるのではなかろうか。

折よく北から南への車両は渋滞のため動かなくなり、南から北への自動車も途切れたので、被告の長男敦は、まもなく信号は青に変わるであろうし、帰りが遅くなると母親に叱られるかもしれないとひそかに案じ、交通ルールを犯す罪意識を感じつつ、東西に通ずる横断歩道をゆつくりと、それも南の端を西から東へ自転車に乗つて進行していつた。しかも、直角に交差する車両等を注意しながらである。向こう側の歩道まで約一メートルというそのとき、北から南へ自転車で進んで来る原告を、長男は四、五メートル左先に見た。そのあと、歩道へ出たのである。その直後、後方でがちやつという音を聞き、ふりむくと原告が転倒していた。長男は、どうしたのかなと思いながら、自分の自転車を歩道のはずれに止め、原告のそばへ行き、「大丈夫ですか」とたずねたのである。原告は、長男に、「赤信号で渡る奴があるか」と叱りつけ、事故を知つて集つた周囲の人びともその辺の事情は知らないながらも、「そうだ、そうだ」というのに負けてしまい、長男は、あたかも自分と原告が衝突したような立場に追いやられ、無言で突つ立つていたのである。

原告は、交差点を通過する際は、信号が青であつても、交通の安全を確認のうえ進行する注意義務を怠つており、さらに、現場は原告が普段通いなれている道路であるから、原告は、北から南へは傾斜がついていて、当然惰力がつくことを知つていながら、危険防止の措置を講じなかつた。原告が自分の年齢や能力に応じた自転車の操作をしていれば、そして正常な自転車を正常に操作していれば、原告の説明する鉄棒競技における大車輪をしたようにして転倒することはあり得なかつた。

原告の転倒とそれに伴う受傷は、原告の運転操作の未熟か、運転操作の不注意によるものであるか、あるいは他の自動車によるものであつて、被告側に過失はない。

被告の長男に万が一不法行為が認められるならば、被告としては、民法七一四条にまつまでもなく、親子の情愛としても原告に対して責任をとる。

証拠として、原告は、甲第一ないし第三号証を提出し、証人山川博教、同蔵本笑子、同鈴木敦及び原告本人の各尋問を求めた。被告は、甲号各証の成立を認めた。

理由

請求原因第一項(1)(2)の事実は、当事者間に争いがない。

同項(3)の事実のうち、原告運転の自転車と被告の長男鈴木敦運転の自転車が衝突したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

同項(4)の事実は、当事者間に争いがない。

同項(5)の事実のうち、二つの自転車が衝突したとの事実を認めるに足りる証拠はない。被告の長男鈴木敦が信号無視をして進行していたことは、当事者間に争いがない。原告本人尋問の結果によれば、前記日時場所において、原告が自転車を運転して南進中、被告の長男敦が自転車を運転して原告の進路前方を西から東に横切り進行したため、原告の自転車が転倒して、原告が路上に倒れたことが認められる。原告は、当初は二つの自転車が衝突したと主張していたが、当事者本人として尋問を受けた際には、右主張をひるがえし、原告の自転車の前部が相手の自転車に擦過したと述べている。そして、その状況については、「とつさのことで、どういうふうに擦過したかは言えません」と述べている。擦過も広い意味では衝突に含まれるとも言えるので、強弁すれば、原告は前言をひるがえしていないとも言えるが、原告の法廷における言動の情況から判断して、原告は前言をひるがえしたと認定せざるを得ない。原告は、請求原因の中で、腹を上にして地上に投げつけられるように倒れたと述べている一方、胸部を打ち、右胸部打撲症を受けたと述べている。また、原告は、事故直前には、通常の速度で進行していた、と述べている一方、ブレーキをかけたところ、原告の体は前方へ大車輪のような形で腹を上に向けて飛んだと述べている。その他、原告の言辞にに誇張や矛盾が多く、裁判所としては、十分に信用することをためらう。結局、二つの自転車が接触したとの事実を証明するに足りる証拠はないと断ぜざるを得ない。

請求原因第一項(6)の事実を認めるに足りる証拠はない。

次に、順序を変更して、請求原因第四項について検討する。

原告は、直接の加害者である鈴木敦がその行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えていないので、民法七一四条によりその監督義務者である被告を相手として本訴を提起した旨述べている。しかしながら、右の鈴木敦を証人として尋問した結果では、右同人は本件事故当時右の知能を具えていたとの疑いが濃厚であつて、原告は右主張事実の立証に成功していない。もつとも、法律の適用は裁判所の職分であるから、原告がいかに強硬に民法七一四条の適用を主張しておろうとも、裁判所としてはこれに拘束されることはない。また、民法七一四条を反対解釈すると、未成年者に責任能力がある場合には、親権者には責任がないように見えるが、そのように解すべきではあるまい。親には未成年者を監督すべき一般的義務があるのであるから、その義務を怠つたことと事故の発生との間に因果関係があるときは、民法七〇九条により親に損害賠償責任を認めるのが、妥当なる法の解釈であると考えられる。これを整理すれば、次のとおりになる。まず、第一に、直接の行為者である未成年者の不法行為により損害を被むつた者が未成年者の親権者に対し損害賠償の請求をなしうるためには、その親権者に監督義務違反がなければならない。監督義務者の責任といわれるゆえんである。次に、民法七一四条の適用を主張する者は、未成年者に責任能力がなかつたことを証明しなければならない。この証明に成功した者は、親権者の具体的な監督義務違反を証明することを要しない。親権者が損害賠償責任を免れるためには、監督義務を怠らなかつたことを証明しなければならない。第三に、被害者は、未成年者の責任無能力を証明することができなかつたときでも、親権者の監督義務違反を直接証明することによつてその責任を問うことができる。

右のような法律解釈によつて本件を検討する。前述のように、原告は、被告の長男敦の責任無能力の事実の立証に成功していないので、民法七一四条によつて被告の責任を問うことはできない。証人鈴木敦の証言によれば、被告の長男鈴木敦は現在徳島大学教育学部付属中学校三年生に在学していることが認められる。同中学校に入学する者が優秀な生徒であることは、当地方では公知の事実である。これらの事実のほか、同人の本件事故当時の年齢等を考慮すれば、同人は右の当時責任能力を具えていた可能性が強いのである。同人は、証人として尋問を受けた際、「どうして赤信号で車道を横断したのか」と問われ、「北から南へ向けての信号がもうじき赤に変わるだろうと思つたからです。それと、車が渋滞していて、早く帰らないと母に叱られると思つたから、渡つてしまつたのです」と答えている。これらの証言と前記事実とを合わせ考えると、同人の父母は、同人の学校教育には熱心であつたが、その社会教育には関心が薄かつた疑いがある。その点では、原告が被告を非難していることが多少は当たつているように思われる。しかしながら、これらの点を考慮しても、なお、本件事故の発生と被告の本件未成年者に対する監督義務違反との間に相当因果関係を認めることはできない。右のほか、原告は、被告が原告の入院先の病院へ訪れた際の態度やあいさつの仕方をも非難しているが、この点についても、原告主張事実を認めるに足りる証拠が十分でなく、また、その論拠にも理由があるとは思えない。

結局、原告は、被告の未成年者に対する監督義務違反を根拠として、その責任を問うことはできないが、被告は、その陳述した答弁書の末尾に「被告の長男に万が一不法行為が認められるならば、被告としては、民法七一四条にまつまでもなく、親子の情愛としても原告に対して責任をとる」と書いてある。これは、一面、被告の長男に不法行為がないとの考えを誇張した言葉とも受けとられるので、その真意のほどには疑いがあるが、他面、法廷で予め準備した書面に基づいて陳述したことであれば、まつたく心にもないことを言つたとも断言できない。そこで、被告の長男の不法行為責任について考えるに、前述のように、同人は、対面する信号機の表示が「止まれ」であるのに、あえて車道を自転車に乗つて横断したものであり、その結果、原告運転の自転車の進路前方を横切ることとなり、原告は、衝突を避けるため、急ブレーキをかけ、因つてその場に転倒し、傷を負つたものである。これらの事実は、証人鈴木敦の証言及び原告本人尋問の結果によつて認めることができる。そして、右各証拠によれば、原告の自転車の右側には自動車があつたので(徐行していた)、両自転車の運転者はたがいに相手方を発見するのがおくれたことが認められる。このような事実関係のもとにおいては、原告の転倒と被告の長男の行為との間に相当因果関係ありと認められる。

請求原因第二項(損害)の(イ)から(ヘ)までの事実を認めるに足りる証拠はない。この点は、裁判所の審理不尽とも言えないことはないが、原告は、法廷で立証を促されても、これに応じなかつたものである。また、本件事案の性質に照し、その必要はないと思われる。被告主張のごとく、原告が自分の年齢や能力に応じた自転車の操作をしておれば、原告の受傷はもう少し軽くてすんだのではないかと思われる。その点から考えて、原告主張の受傷と被告の長男の行為との間の因果関係には多大の疑問がある。そのうえに、被告に責任を負わせる根拠が前述のようなものであつてみれば、これ以上立証を促す必要は認められない。請求原因第二項(ト)の休業補償の点については、いちおう甲第三号証(納税証明書)が提出されているが、原告主張の受傷の証明が十分でなく、これと被告の長男の行為との間の因果関係の証明が十分でないことから考え、右損害のうちどの程度を被告が負担すべきものかが明らかでない。この点、同項(チ)の慰謝料についても、同様のことが言える。

結局、当裁判所は、以上の一切の事情、とくに被告に責任を負わせるに至つた経緯の特殊性を考慮して、被告をして、原告に対し、金五万円の慰謝料を支払わせるのが相当であると考える。

よつて、原告の請求は、金五万円とこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五二年一二月二九日から完済まで民法所定年五分の率による遅延損害金の支払いを求める範囲で正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を適用して、主文のとおり判決する。仮執行宣言は、これを付する必要性を認めない。

(裁判官 堺和之)

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